欲望で世の中を切り取ります

欲望というモノサシを使うと、世の中の不条理が合目的であることが理解できます

お金の違和感の正体に気づく本『エンデの遺言』

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

お金の重大な問題は以下に集約される。

  • パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金が同じお金でありながら、違う性質をもつ。後者のお金は、「利子」という錬金術的に自然増殖する(癌細胞のように、「対数的に」)お金の問題を秘めており、富むものがより富んで、貧しい人はより貧しくという不条理を引き起こし、また、大抵の人の生活も苦しくしている。具体的には、利子は銀行からお金を借りなくても、商品の金額の中に既に含まれており、利子がなくなれば、モノの価格は30〜50%安くなるはず。企業のキャッシュフローの4分の1が利払いに充てられている。
    • お金は劣化しない性質を持ったため、モノを持つ側よりカネを持つ側の方が圧倒的に強くなった。そのため、プラスの利子がまかり通るようになった。本来であれば、どんなモノにも代えられる価値を持つカネは、その利便性と引き換えに減価されてもよいはずなのに。
  • 問題を解決するには、マイナス利子だ。
    • 自分の炭鉱の石炭を担保にし、掘る給与として、毎月1%ずつ減価する通貨、ヴェーラを配った(3分の2は法定通貨のまま)。また、ヴェーラで購入できる商店も用意。商店に客が殺到することで、初めて、街の商店もヴェーラを扱い始めた。減価する前に使わないとということで、どんどん経済が回るのだ。
    • 街のあちこちにおかれているタウン誌の申し込み用紙に1ドル同封し、自分が売りたいものを書いて送ると、そのタウン誌に記載され、そして、2アワー送られてくる。そして、地域のコミュニケーションがはじまる。例えば、あなたが自家製パンを売っているとしたら、どんなパンがあるのかといあわせがあるかもしれない。そのヒトがピアノのレッスンをイサカアワーで受け入れていると知り、娘のレッスンを頼みます。ところが、レッスン料と自分の稼ぐアワーが折り合わない時、自家製のパンも提供するなどの交換が成り立つ。
      • 利子はゼロのモデル。「時は金なり。この紙幣は、時間の労働、もしくは交渉のうえで、モノやサービスの対価が保証されている。イサカアワーは、私たちの技能、体力、道具、森林、野原、そして川などn本来の資本によって支えられています」と紙幣に書かれている。だれも、イサカアワーで銀行ビジネスをしようとは思わないんだろうなぁ。

結果、ヴェーラは法定通貨を脅かす存在として禁止され、イサカアワーは推奨された。
あまりに急激に不況を救うなどして、目立ちすぎたからではないかと推察する。イサカアワーは、地域密着のポイントのような絶妙な位置付けに留まった。

なお、上記の不条理についてのモモの一節がこちら。
灰色の男が、利子をさしているのだろう。

モモは、マイスター・ホラに『あの人たちは、いったいどうしてあんなに灰色の顔をしているの?』と尋ねる。マイスター・ホラは答える。『死んだもので、いのちをつないでいるからだよ。お前も知っているだろう、彼らは人間の時間を盗んで生きている。しかし、この時間は、ほんとうの持ち主から切り離されると、文字通り死んでしまうのだ。人間というものは、ひとりひとりがそれぞれの自分の時間を持っている。そしてこのじかんは、ほんとうにじぶんのものであるあいだだけ、生きた時間でいられるのだよ』『じゃあ、灰色の男は、人間じゃないの?』『ほんとうはいないはずのものだ』